交通事故と高次脳機能障害(令和5年2月14日更新)
交通事故に遭うと、衝突などによって激しい衝撃が身体に加わり、頭部をぶつけたり,激しく揺さぶられたりすることがあります。
このように頭部に激しい衝撃が加わった場合に、高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)と呼ばれる後遺障害を発症する場合があります。
高次脳機能障害とは、失語・失行・失認のほか、記憶障害・注意障害・行動障害などが生じる後遺障害です。そのため、交通事故後に病院で撮影されたCT画像やMRIの画像からの所見では、明確な脳の損傷が発見されない場合もあります。しかし、その場合であっても被害者の記憶力や注意力の低下が生じることもあります。
また、被害者自身には明確な自覚がなく,家族が怒りっぽくなった,神経質になったなど,高次脳機能障害は被害者の精神的側面にも影響が生じる例があります。そのため、被害者の仕事や日常生活などに支障が生じる場合もあります。
高次脳機能障害の診断名は、「脳挫傷後遺症(のうざしょうこういしょう)」「びまん性軸策損傷後遺症(びまんせいじくさくそんしょうこういしょう)」とされる場合が多いです。
注意が必要なのは、明確な画像所見が無い場合には、客観的に高次脳機能障害であると判定することが困難なため、医師が高次脳機能障害の判断に消極的になったりして,自賠責の等級認定上はあまり考慮されずに低い等級認定になってしまい、十分な被害者の救済が行われていない場合もあるということです。事故直後に意識障害がある程度の時間続いた場合は,画像上明確ではなくても,脳がダメージを受けた可能性が高いので,早急にお医者さんに対応を依頼し,神経心理テストなどを行ってもらう必要があります。
もし、周囲に交通事故に遭い、例えば、感情の起伏が激しく怒りっぽくなった、感情のコントロールができなくなった、記憶力や集中力が低下してしまったなど、交通事故前とは別人ではないかと思うくらい変わったと感じられる方がいらっしゃいましたら、早期の対応が必要ですのでお早めにご相談下さい。
(弁護士 菅野芳人)
高次脳機能障害の認定基準は以下のとおりです。
高次脳機能障害認定基準
等級 |
認定基準 |
1級1号 (要介護) |
身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、 生活維持に必要な身の回り動作に全面的介助を要するもの |
2級1号 (要介護) |
著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって1人で外出することができず、日常の生活範囲な自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの |
3級3号 |
自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、 円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの |
5級2号 |
単純なくり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの |
7級4号 |
一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの |
9級10号 |
一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの |