高次脳機能障害インタビュー
1 高次脳機能障害者をとりまく交通事故の現状と課題
インタビュアー: 最初に、高次脳機能障害を抱えられた方と、この方を取り巻く交通事故の現状と課題を、菅野先生が今考えられていること、感じられていることを教えいただけたらと思います。
菅野弁護士:高次脳機能障害っていうのは簡単に言うと脳損傷に基づいて記憶とか、記銘(きめい)力なんかに障害がでてくる。あと、視野障害、視野欠損といったものが出てくるような、遂行障害とかそういった障害が伴う概念ですね。
古い概念ではなくて、今から15年位前に高次脳機能障害ってテーマが取り上げられてきた。それ以前は、もう全然「なんだろうこの人は?」って病院から外に出されてきた人たちが、高次脳機能障害があるんだってことによって初めて救済の対象になったという、比較的新しいものです。
ただ病院のほうは、大変な傷害ですから、脳損傷しておりますから病院に運ばれるんですけども、お医者さんの方は救命が第一であり、そういう(後遺症が残る可能性があるという)意識を持って治療にあたってるというのは、今はたぶん、おそらくないんではないですかね。脳損傷という大変な状態になって入ってきて意識もない状態で病院に来るんですが、お医者さんは懸命に助けようと思って救命の治療をするんですよね。
結局亡くなる方もいれば、助かる、助かってこういった大きな障害を残す人もいるわけですけども、お医者さんの方からしてみれば、もちろん人にもよりますが、大変な状態から助けてあげたんだよっていう意識があっても、今後障害を残して救済の対象になっていくという意識はその時点ではあまりないんですよね。
私が担当した事例の中には、お医者さんは、意識が戻りましたよ、手足が動くようになりましたよという状態になると、そろそろ退院だね、と1ヶ月くらいで退院させてしまうと。1ヶ月くらいで退院をして、何かあったらおいでねと、それで終わってしまったっていうケースもありましたね。
病院のお医者さん方にみんな高次脳機能障害についての知識をきちっとつけていただきたい、そうしていただくように、我々も努力しなきゃならないというところかなあ、と思います。まずはそこが入り口かなと思っています。
インタビュアー: 病院のお医者さんの理解が得られずに悩まれている患者さんやご家族も少なくないという状況なんでしょうか。
菅野弁護士:そうですね。私が担当した方では、3日か4日で退院した方がいましたけども、それは自転車と車の事故で、当時中学生で交通事故に遭って3日で退院されたんです。しかし、どうも息子が変だなと、お父様は気づかれていました。お母様は全然気がついていなかったんです。そして、相談に来られて対応したというケースがありました。
最終的には、7級の後遺障害を獲得して、結構大きな賠償金になったというケースです。そのケースでは、病院のカルテのほうには、正常になって退院したよということしか残されていなくて、もう1回きちっと検査をしてもらうまでのところは、なかなか大変でした。けれども、高次脳機能障害を示す様々な証拠ができ適正な賠償金を得ることができたので達成感がありましたね。
2 高次脳機能障害者(ご家族含む)に対する想い
インタビュアー:ご家族も病院のお医者さんの理解が得られないなど、ご家族がお悩みを抱えられることもあるのではないかと思いますが、高次脳機能障害を抱えられた方のご家族に対する菅野先生の思いは、どういったものがありますか?
菅野弁護士:高次脳機能障害になられた被害者の方自体も非常に辛い立場にあって、大変な状況にあるというのはもちろんですが、高次脳機能障害の程度の差にもよりますけど、ご家族も大変ですよね。ひどい状況になると日常の生活動作すら満足にできない、遠くに行って戻ってこれないとか、近くでも戻ってこれないとか、そんな状況が発生します。また、性格の変化などにより、近親者が苦労されているケースも多いです。手足に麻痺が残れば、日頃からそばにいて支えてあげなければならない状況になります。ご家族の方も大変つらいですよね。
こういうものって、結局、自転車や歩行者に多いので、被害者の方ってお年寄りの方とか幼児とか、学生の方に多いんですよね。これらの方々が生活していくのって本当に大変だと思うんですよね。家族もそれを支えていくって大変です。
私が心がけているのは、家族のケアをきちっとしないといけないな、ということで、相談できる機関を紹介できるところは紹介し、福祉関係もアドバイスできるところはアドバイスすることにしています。少しでも力になれればということで、こちらで話をしながらサポートをしているという状態です。
インタビュアー:やはり専門家の手助けが必要ということで、家族のケアも連携してやってらっしゃるということなんですね。
3 高次脳機能障害問題を適切に解決していくために押さえておきたいポイント
インタビュアー:高次脳機能障害に関しては、かなり問題も多いんじゃないかというところなんですけど、この状況を踏まえて、菅野先生が高次脳機能障害者をとりまく問題を適切に解決していくために、おさえておかなければいけないと思われているポイントがありましたら、教えていただけないでしょうか。
菅野弁護士:まず一番最初が肝心というところはありますよね。最初に病院に行った段階です。高次脳機能が認められるためには意識の障害の状態ですよね。あとは画像の問題です。MRIとかきちっと撮っておかなければならない。そのあたりのところはご理解をしてお医者さんに意識していただきたいところです。
ある程度の段階になって意識が戻り、比較的脳損傷の治療もなくなられて落ち着いてきたという段階で、さまざまな検査をきちっと受けて、最終的には総合的に判断される、ということになりますので、初期の段階で、意識の障害がどの程度あったのかというポイントとか、画像を必ず撮ってもらうとか、そういったところですね。そこが一番肝心なとこなんですが、当初段階で検査がされないケースが中にはありますね。落ち着いた段階での検査も大事ですので、経時的に検査を受けることが必要だと思います。
検査の段階になってくれば少し落ち着いて、弁護士の方に相談っていうのがあるんですけど、その前の段階ではなかなかアドバイスできないので、そこは、やっぱりご家族やお医者さんに高次脳機能障害のことをわかってもらう必要が出てくるのかなと思っています。
インタビュアー:お医者さんを探す場合にも、きちんと高次脳機能障害に関して詳しいお医者さんを選ばなければならないと思うのですが、どのように探せば高次脳機能障害に明るいお医者さんを探すことはできますか?菅野先生の中でアドバイスできることはありますか?
菅野弁護士:救急なんかでは比較的難しいのかなと思います。ただ、脳損傷になれば、大学病院や公立の病院など、それなりに大きな病院に行きますね。このような病院の先生方は、高次脳機能障害についても理解がある先生がいらっしゃるという認識はしております。
インタビュアー:比較的大きな病院で、きちんと検査してもらえれば、高次脳機能障害っていうことで見てもらって対応してもらえるということですね。
菅野弁護士:そうですね、きちんと高次脳機能障害と認識していただければ、リハビリできる病院の紹介などしっかりと対応してもらえると思います。ただ軽度の方は問題です。脳損傷が軽度の方で、短時間で意識障害の状態を脱したという場合には、早めに退院されてしまう場合があって、その時は、なかなかケアがなされないかなと思われます。
4 高次脳機能障害問題を前に進めるために、私たちが取り組んでいること
インタビュアー:今お伺いした中でも、高次脳機能障害の問題は、まだまだ発展段階といいますか、課題が大きい問題だと思ったのですが、菅野先生がこの問題をより多くの人に知ってもらう、問題を抱えた方の悩みを解決していくために取り組んでらっしゃることがありましたら教えていただけますか。
菅野弁護士:私のホームページを利用してもらうということはもちろんなんですけども、今考えていることとしては、色んな連携先に、紹介などをしてあげて、ある程度関係が構築してもらえたらなと思っていますね。
もちろん我々もサポートするのですが、福祉的アドバイスもしてもらえるでしょうし、就労支援などもサポートしてもらえると思います。このような連携先のほうへご紹介できる関係を今後も築いていきたいと思っています。高次脳機能障害を抱える家族を支援する家族の会のようなものもありますので、ご紹介してあげて、心理的なところを、精神的なところをできるだけ多角的にサポートさせていただいています。
我々の仕事としては、もちろんきちっと適切な賠償までたどり着きたいと思っています。
5 これから高次脳機能障害問題の取り組みを進めるために、目指していること
インタビュアー:最後に、高次脳機能障害を抱えられた方、ご家族の方に、菅野先生のほうからメッセージあれば教えていただけないでしょうか。
菅野弁護士:高次脳機能障害になってしまった、そういった状態になってしまっても、決してあきらめる必要はないと思います。ある程度遂行障害が出たとしても、ひとつひとつ、やっていくことをメモしていくことによって、ある程度その障害が取り除かれる場合もあってですね、本人はもとより、家族の方もそんなに悲観しないで見てあげていくってことが必要かなと思います。我々は、高次脳機能障害を抱えたご家族をしっかりとサポートしてあげるという関係性でいることが大切かなと思っています。